5月5日の子供の日。
部活が休みなのをいいことに、あいつの家へ出かけることにした。
こんないい天気の日に、家でじっとしてるなんてもったいない。
いくらか風が強く感じるけれど、逆にそれが心地いい。
歩きながら見かけたこいのぼりたちは気持ちよさそうに空を泳いでた。
――― ハ ナ シ ョ ウ ブ ―――
電話もメールもしなかったのはあいつを驚かしたかったから。
それなのに悪巧みは見事に裏切られた。
「―――ちっ!」
でかい図体をだらしなく伸ばし座布団を枕にしたまま、鉄は気持ちよさそうに寝入っていた。
昇り龍が描かれた長めの手ぬぐいが風にあおられてぱたぱたと揺れている。
「寝てんじゃねーよ。くそっ」
いまさら他のとこへ行く気にもなれず、勝手に部屋に上がりこんで物色してみる。
といってもエロ本が見つかるわけもなく、すぐに諦めた。
どこに隠してるんだか。
鉄の寝顔を覗き込んでみればすっげー幸せそうで。
それが逆にむかついて頬をつねってみる。
「……起きやしねー。どーすっかなぁ」
障子は外すされ、開け放たれたこの部屋から純和風の庭がよく見える。
まだ青い楓の葉が風に揺れ、その下で紫色の花が咲いていた。
あれは確か花菖蒲――だったか?
いつだったか鉄の母親に教わった花だ。
「ふぁぁあああっ」
特にやりたいこともなく、ぼーっとしてたら欠伸が出始めた。
酷く、穏やかな時間は眠気を誘う。
そのまま、睡魔に導かれるように眠りについた――
「――ぅ! 京っ!」
ゆさゆさと体を揺らされてぼんやりと目が覚めた。
まだ少し夢心地だけれど。
「おーい、京ちゃ〜ん」
「っ! てめーそれで呼ぶんじゃねーよ!」
「うわっぁ!」
「ちっ。避けやがったか」
嫌な呼び方をされて一気に覚醒すれば、目の前には悪人面の鉄が。
しかも人にキスしようとしてやがった。
「あっ、あぶなー。いきなり殴りかからないでよ」
「テメーが変なことしやがるからだろーが!」
「変なことじゃないよー。目覚めのちゅー…ぐはっ!」
「それが変なことだっつーの!」
懇親の右ストレートが綺麗に顔にヒットする。
ざまーみろ。
にしても油断も隙もねぇな、相変わらず…。
「京ちゃん酷い…」
「テメーが悪いんだってーの。それからちゃん付けはやめろ」
「はいはい。それよりさ、何時ごろにきたの?」
「あー…早めに昼飯食ってすぐだから12時ちょい過ぎか?」
「2時間近く一緒に寝てたのか。起きてれば良かったね、ごめん」
少しだけ困った顔になって、でもすぐに嬉しそうな表情に切り替わる。
優しい眼差しを向けられ居たたまれなった。
「でも目覚めた時に京がいて嬉しかったな」
「………ばーか」
はにかみながら、片膝を立たせ肘を乗せて頬杖をついた。
俺は俺で向き合うように胡坐をかいて座り込む。
しかし…恥ずかしいことをさらりと言うのはやめて欲しいぜほんと。
「ん?」
「どうした?」
「鉄、その左腕んとこどうした。血、出てるぜ?」
「あぁこれね…」
ぺろりと流れた血を舐めとるしぐさはこの上なくエロい。
しかも無意識にこういうことを平気でやってのけるからたちが悪い。
まれに分かっててやるときもあるけど…。
「これ、京介がやったんだけど…」
「は?」
「まぁ寝ぼけてたから覚えてないとは思ってたけど…」
「マジで?」
「痛みを感じて目覚めたら京介が俺の腕にかぶりついててびっくりしたよ。
京介の鋭い犬歯が痛くてすぐに引き抜こうとしたんだけど余計に噛み付かれてね。
おかげで切り傷みたいになっちゃったよ」
「………わりぃ」
話を聞いて視線をそらして俯いてしまった。
そういやなんかでかい肉の塊を食べようとしたような夢をみてたような記憶が。
「…ならさ、たまには京からちゅーして?」
「なっ!」
腕を引っ張られた瞬間、鉄の腕の中に閉じ込められた。
もの凄いご機嫌な鉄が恨めしい。
「それでチャラにするから。ね?」
「――っ! これっきりだかんな!!」
低く唸りながら触れるだけのキスを一回。
たったコレだけなのに恥ずかしすぎて顔が真っ赤になった。
心臓の音がやけにうるさく感じる。
「あーもー可愛い〜」
声が出る前に唇がふさがれた。
容赦なく唇を割られ、鉄の舌が俺の口の中へと侵入してくる。
逃げ出したり殴ったり出来ないようにがっしりと両腕で押さえ込まれ、身動きが取れない。
ただ、なすがままに口の中が犯される。
絡み合う舌と、唾液の音が体の記憶を呼び覚ます。
そして――
心地よいと思っていた風すら分からないほど溺れさせられた。
大きくうねる快楽とい言う名の波に――