ひらり―――
          ひらり―――

  赤く色付いた葉が一枚、また一枚と落ちてゆく。
  敷き詰められた白い玉砂利。
  その上にひらりと舞い落ちた紅葉の葉。
  白と赤のコントラストがなんとも言えず静かな「和」の空間を作り出していた。
  空を見上げればもう少しで上弦を迎える月が白く輝いて。



『  白月の夜に  』
          〜 しらづきのよるに 〜



  ―――なんか緊張する。

  ぽつりと呟いたのは恋人の誕生日を祝うために泊まりに来ていた内村のものだった。
  石田の家に何度も来ているはずなのに未だに慣れないのは静か過ぎるせいなのか。
  それとも色々と身構えてしまっている自分のせいなのか。
  答えは内村自身にも分からないのだ。
  けれど決して嫌いなわけではなく、むしろ居心地はいい。
  なによりも石田特有の匂いがここにはあるから。

  ―――匂いに抱かれてるつーかなんつーか。
  ―――抱きしめられているような包み込まれているようなそんな感じ…か?

       ひら ひらり―――

  また一枚枝から離れて地面に落ちる。
  今度は内村のすぐそばに。

  ―――これがいつも鉄が見てる風景。

  時間の流れがとても緩やかに思えて錯覚してしまう。
  ここに取り残されたんじゃないかという…微かな不安。

  ―――あぁ…だから一人でいるのは嫌なんだ、俺。
  ―――前は一人でも平気だったのにな…。

  落ちたばかりの葉を拾い、くるくるとまわしながらぼんやりと庭を眺める。v   ときおり吹く風に葉が擦れ、さわさわと音がする。
  微かに聞こえるのは鳥の声―――

  ―――そーいやなんで俺ここにいるんだ?
  ―――帰るはずじゃなかったっけか?

 「京…なにしてんだ?」

  黒地に白いかすりの入った着物を着て現れたのはこの部屋の主でもある石田だった。
  と、同時に内村の恋人でもあるのだが…。

 「あぁ、お帰りって寝巻きも着物なのか?」
 「んーまぁそうだな。さすがに雪とか降ると辛いけどこれが一番楽なんだ」
 「ふーん」

  素っ気無く応えてはいるものの内村は戸惑っていた。
  180cmを超える体は少年の体つきよりも厚みを増し、大人の肉体へと変わり始めているのだ。
  惚れている欲目も多少はあるのだろうが石田の着物姿はよく似合う。
  特にこういった和の空間の中では。

 「で、なんで首傾げてたんだ?京」
 「…………」
 「――――――ふぅ」

  だんまりを決め込もうと思っていた内村の体がふわりと浮いた。
  そして自分がどんな状態にいるかを悟る―――

 「バカッ放せっ!下ろせよっ!!」
 「あのままいても風邪引くだろ?」
 「俺はそんなこと聞いてねぇ!」
 「あーあー随分と長いこと外見てたんだろう。体冷えてるぞ」
 「そんなことはどうでもいいだろっ!下ろせっバカ鉄っ!!」
 「………バカ鉄は酷くないか?」

  台詞と共に布団に下ろされた内村。
  けれど、にっこりと微笑んだ姿はなぜか人の悪い笑顔にしか見えなかった。

  ―――地雷…踏んだか?

 「京…」

  じっと見つめる石田の視線に徐々に熱を帯び始める内村の体。
  そして、結局は内村が負けるのだ。
  石田の無言の問いかけとも言える眼差しに。

  ―――弱いの知ってるくせに…鉄のばーか。

 「一人ぼっちみたいで…そしたらなんで俺ここにいるのかなって…」
 「一人じゃないだろ?俺がいるんだし」
 「っ…そーだけどっこういう静かな雰囲気あんまなれてねーから!」
 「あー確かに静かだからなぁ。寺だし」
 「そんなこと考えてたら錯覚しただけ!以上!つーか俺の上からどけっ!」

  石田は内村に覆いかぶさるように布団に下ろし、体を束縛して…。
  脱出しようともがいている内村は気がつかない。
  微笑んでいる石田の眼差しが優しいことに。
  押さえつけている力も最小限にとどめているということに。

 「誕生日、最後まで祝ってくれるためだろ?」
 「あっ?」
 「だからさ、京がここにいる理由」
 「っ―――――ばっ、ばかっ!!」

  内村の顔が赤くなる。
  どうしようもないくらい赤く、全身真っ赤に染められるように。

       ひら ひらり―――

  否応無しに認めざるえないのだ。
  自分自身がどれだけ相手の言葉に一喜一憂しているのか。
  そして同時にどれだけ惚れてるのか―――再確認してしまう。

  ―――ほんとに………ずりぃーよ。

  丸く切り抜かれた窓から一枚、また一枚と葉が落ちてゆく。
  静かな時間が流れ、視線を絡ませる石田と内村。
  呼吸をすることすら出来ないような空間に内村は溺れるような感覚に陥った。
  ただ―――考えられるのは石田のことだけ。

 「………京」

  静寂を破ったのは石田からだった―――

 「きょ…ぅ………」

  艶めいた囁き声にぴちゃりと耳朶を舐めとる音。
  熱い吐息に頬から顎のラインをなぞる指先。
  全てに感じてしまう。
  愛しいと思う心さえも。

  けれど…恐怖心が確かに存在しているのだ。
  まだ精神的にも肉体的にも未熟で、触れあいたいという願いよりもまだ強くて。
  体が拒絶してしまう。
  硬直して、息がうまく出来なくて―――それが悔しくて。

       ひらり―――
          ひらり―――

 「泣くなよ…」
 「なっいてなんかっ………っ」
 「悪い。急かしすぎた…」
 「ちがっ!……れたっい…にっ」
 「無理しなくていいから」

  言葉が、声が上手く出てこなくてもどかしくて―――
  ちゃんと伝えたいのだ―――触れあいたいということを。

 「むっ…りじゃなっ……くてっ!」
 「……………京」
  優しく紡がれた内村の名前。
  穏やかな笑顔に胸が痛んだ。v
 「てっ……つぅ………」

  伝えたい言葉の代わりに口付けを―――

 「…き……だからっ」
 「京?」
 「俺も好きだからっ! だから…っ」
 「うん、知ってる」
 「もう少しだけ、もう少しだけ…」
 「待つよ、京が平気になるまで。」
 「て……つ………」

       ひらり ひらり―――

 静かな時の中、二人は抱き合ってもう一度キスをした―――


*** Fin ***