『  Crescent Secret  』
*** 2003/08/15 初出:Crescent Secret ***



誰にも言えない秘密があります―――



自分だけの、大切な…大切な…秘密―――

神聖な儀式のように厳かな静寂の中で―――

相手に気がつかれないように―――



   Side Kabaji



付き合いだしてからもうすぐ一年。
初めて言葉を交わした季節が…また、巡ってきましたね。
前とは違う自分のポジションが少しだけくすぐったくて、そして同時に誇らしいです。

この場所は誰にも譲らない―――

側にいろといってくれた日に初めて持った貴方への秘密。
別に口に出して言うようなことでもなかったから…。
それが全てのきっかけだったような気がします。

付き合いだしてからは色々なことがありましたね。
喧嘩も――しました。
跡部さんの家に泊まる、泊まらないで揉めて―――
その時の悲しそうな顔だけは今でも鮮明に覚えています。
すぐに「行きます」って答えて許してもらえたけれど…。

もう二度と跡部さんを悲しませない―――

付き合いだして二週間くらいに出来たニ個目の秘密。
すぐに跡部さんにばれちゃって秘密にもならなかったけど。

跡部さんとの距離が近づけば近づくほど、遠い存在だと、遥か遠くにいるのだと肌で感じる日もありました。

まだ準レギュラーになって間もない頃、俺相手に本気で試合をしてくれた時に…。
圧倒的なプレーを見せつけられて、あっさり負けちゃって。
試合の最後に跡部さんのプレーをそっくり真似をしたら「もっとやって見せろよ」って笑ってくれましたね。
花がほころぶような…優しい笑顔で。
試合が終わっても自分の技を俺に覚えさせるために相手をしてくれて…嬉しいと思いながら凄く大きな人だと思いました。
空のように広く、豊かな心に――触れたような気がしました。
なによりも一緒にテニスが出来るのが楽しくて仕方なかったんです。

もっともっと強くなって少しでも跡部さんの役に立ちたい―――

三個目の秘密は今もなお忠実に守っています。
跡部さんとの距離は…近づけたのかまだよく分からないけれど。

…もともとあまり物にも人にも執着心を持っていませんでした。
自分なりにはあるほうだと思っていたのに…。
それが跡部さんと付き合うようになってから少しずつ変化してきたんです。
大切なものと、そうでないものが今までよりはっきりと明確になってきて。

十月の終わり頃には両親に「好きなようにやりなさい。でも…中途半端なことだけはするなよ」って笑いながら言われたことがあったの、覚えてますか?
ちょうどニ個目の秘密が出来た翌日の出来事だと記憶しています。
次の日からは急に外泊しても怒られなくて、跡部さんに話したら「なら毎日泊まれ」って言われて困りましたけど。

一ヶ月くらいたって外泊の件をそれとなく聞いてみたら母親に「新婚の時に戻ったみたいで楽しいわよ」なんて言われました。
いいのかなぁ。と、思ったけど信用されてるのが分かって嬉しかったっけ。
今では週末になると二人でデートに行くらしいです。父さんと母さん。
夫婦の仲がいいのは幸せな証拠だし、逆に喜ばれてるなら外泊してもいいかな?って思うようにもなりました。
本当は跡部さんと一緒にいられるから嬉しいんですよ。
これ以上迷惑をかけたくないので自分からは言いませんが…。

太陽のように眩しくて、氷帝に通っている生徒なら知らない人がいないくらい有名人で人気者な跡部さん。
気品溢れる仕草や、ふとした瞬間の憂い顔に誰もが魅了される。
かもし出す雰囲気が周りの人とは違うんです。
なにをしても絵になって…誰もが憧れる人。

だから…ふいに自分がこんなに幸せでいいんだろうかって疑問に思うときがあります。
そのたびに跡部さんに「俺といるんだから当たり前だ。…人はみんな幸せになるために生まれてくるんだ」って…。
嬉しすぎて泣いてしまったら跡部さんがうろたえていましたよね。

ちょっとだけ…可愛いなって思ったのは内緒ですが…。


あの時と同じ月が今、雲に見え隠れしながらこちらを向いています。
あなたの寝顔を照らしながら―――


中学に上がって初めてのクリスマスイブ。
テニス部のレギュラーの人たちと一緒にやったクリスマス会、凄く面白かったですよね。
みんなで料理を持ち込んで他愛無い話をしてたはずなのにいつの間にかテニスの話になっちゃって。
解散したあと、自室でクリスマスの曲、歌ってくれましたよね。
どれだけ俺が嬉しかったか…分かりますか?

その日降り始めた雪を眺めながら跡部さんに言われた言葉がありましたね。

『お前のことは好きだ。でも…一番じゃない』

その言葉に傷つかなかった。と…言えば嘘です。
目の前が真っ暗になるくらい衝撃を受けて胸が締め付けられるように痛かったですから。
そのあとに続いた言葉は今でもよく覚えています。
告白されたときと同じぐらい嬉しかったですから…。

『一番好きなものはテニス以外にはないから。
 でも…樺地への思いは好きなんていう軽い言葉では言い表せないくらい大切なんだ』

自分の脳内で反芻してやっと、言葉の意味を理解出来たんですよ。
好き。よりも愛してる―――と。
俺が思ってる以上に跡部さんも俺のことを考えてくれて…。
いつもと同じ返事しか出来なかった俺は情けなかったですね。

じっと見つめてくる青い瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えて…。
自然と…答えてました。

『俺も………です』と―――

その直後でしたよね…思いっきり抱きつかれてベットへ押し倒されて。
優しい微笑みとは違った…どこか艶やかさを感じる笑みに胸が高鳴りました。
どきどきしているなんて生易しいものじゃない。
そのうち死んじゃうんじゃないかってくらいばくばくしていたんですよ。
貴方から微かに香る甘い匂いにくらくらしながら。

―――綺麗、でした。

銀色に輝く月を背に微笑む貴方の姿はとても印象的だった―――
月に抱かれているように見えて――そして怖くなったんです。

このまま月に溶け込んでしまうんじゃないかって―――

凄く、儚く見えました。
誰よりも光り輝いている人なのに。

声をかけられて初めて気がついたんです…俺が貴方を抱きしめていることに。
無意識に抱きしめて、怒られるかな?なんて思っていたのに逆に喜んでくれましたよね。
確かに俺から抱きしめたのは初めてでしたが…なんで喜ばれたのか同時は分かりませんでした。
今でこそちゃんと理解出来ますけど…。

確かその日の夜でしたよね。
今まで跡部さんが用意してくれてた俺専用のベットで寝ていたのに、初めて…同じベットで寝たのは。
緊張してなかなか寝付けなかったし、跡部さんのさらさらとした髪がとてもくすぐったくて眠れなくて。
人肌がこんなにも心地よいものだなんて知らなかった。

安らぐ…ってこういうことだったんですね。
よく跡部さんが俺に言うことだったけど…少しだけ分かった気がします。
俺も貴方といると安らぎますから。

そして年が明けた一月三日。
俺は貴方に言えない秘密をまた持ってしまいました。

少しだけ欠けていた月が南の空へ昇りきったとき、雲に遮断されていた光が窓から差し込んできたんです。
気持ちよさそうに眠いっている貴方の顔を月明かりが照らし出して―――

なにかに誘われるように口付けてしまったんです。
前髪が揺れたおでこへ―――



自分だけの、大切な…大切な…秘密―――

神聖な儀式のように厳かな静寂の中で―――

相手に気がつかれないように―――



こんなことをする俺を嫌いになりますか?軽蔑しますか?
嫌われたくない以上に貴方に触れたい――と思ってしまったんです。
取り返しの効かないことを…許されない行為だと分かっていて…。

もし、罪を、罰を受けろというなら甘んじて受けます。
けれど――
貴方に相応しい人だと認められたら…貴方が起きているときに触れてもいいですか?
口付けて―――いいですか?

今はまだ自信がない俺ですがいつかきっと―――

貴方の全て支えられる男になりますから―――

いまはまだ…許してください―――



静かに眠る最愛の―――跡部さんへ。



いつか―――打ち明けられるその日まで――


*** Fin ***