静かな空には在るべきものがなかった―――
『 Starry Sky 』
*** 2003/06/29 初出:Starry Sky ***
禍々しく朱に染まることもあれば、時には冷え切った蒼い光を放つ月。
なによりも地平線の彼方ではとてつもなく大きくその存在をアピールしながら。
普段、天高くいる時は淡く、優しげな光を称えている同じモノなのに。
代わりに光を放つ存在は何光年、何億光年離れた彼方からの過去の光たち。
今年初めての新月を迎える今日、跡部にとって大切な人の誕生日でもあった。
去年のようにテニス部のメンバーと誕生日を祝うのもよかったのだが、今年は二人だけで過ごしたかったのだ。
年が明ければもう、卒業まではすぐそこなのだから。
跡部が今居るのは東京ではなく、数ある別荘のうちの一つだ。
都心では決して見ることの出来ない満点の星空を、静かに見上げていた。
「綺麗だな…」
ベットルームにある大きな南向きの出窓。
出っ張りの部分に腕を置き、顎を乗せ見上げれば、空の神々しさに目を奪われる。
気の緩めない生活を送ってきた跡部にとって心休まる貴重な時間。
なにより誰にも邪魔されることがない恋人――樺地――との大切な一時。
「なんか世界に俺と樺地しか居ないみてぇ」
そう…錯覚するほど別荘の周りには誰も居なかった。
たまに食料を運びに来る管理人がいるだけ。
人ではない気配なら感じることも、見ることも出来るだろう。
ここは出来るだけ手付かずのままに自然を残し、その一角に建てた別荘なのだから。
昼間になればどこからともなく聞こえる鳥たちの声や動物たちの鳴き声は微かに遠くで聞こえる程度。
全てが寝静まり始めた時間帯に目が覚めてしまった跡部は飽きることなく空を見上げていた。
「星をこんなに見るのは久しぶりだなぁ」
空から視線を外し、室内に目を向ければ特注のベットに寝ている樺地の姿が見えた。
規則正しい呼吸をしながら。
ほんの少し、唇が嬉しそうに上がってる気がした。
「――――――っぅ」
暖房が効いている室内に居る跡部の姿はシーツに包まれているだけの格好。
ところどころ見える紅い痣は、さっきまでの事情を思わせる。
「まだ少しだるいな…」
呟く跡部の表情は柔らかく、優しい笑みを浮かべていた。
顔が少しだけ赤いのは思い出しているのだろうけれど。
見られている樺地はまだ夢の中なのか、ぽつりと跡部を呼んでいる。
「俺はここにいるぞ、樺地」
「………………………………………ゥス」
「どんな夢見てるんだ? お前は」
樺地と付き合うようになってから徐々に跡部の表情が優しくなってきた。
自分自身の全てを曝け出せる相手が出来て、そして共に居られるからこそなの変化。
そんな変化を跡部自身素直に受け止めていた。
樺地のために変わるなら悪くはない―――と。
しばらく樺地を見つめていた跡部は視線を再び外へと移した。
今朝方にかけて降り積もった雪が星の光を反射して銀色に輝いていた。
星が降りそうな空に幻想的な白い世界。
家の中と外。壁一枚に隔てられた場所は別世界のようで見ていて飽きない。
「………綺麗というより美しいだな」
「跡部さんのほうがもっと綺麗で美しい…です」
「ばーか。それより目が覚めたのか?」
「ウス」
跡部の体が宙に浮く。
「ずっと―――起きてたみたいですが」
「あぁ、目が覚めただけだ」
「大丈夫………ですか?」
「心配するな。引退はしたがトレーニングは続けてるんだ」
「ウス」
そっと出窓の部分へと跡部を下ろせばだいたい同じくらいの視線の高さ。
「体………冷えてます」
「そうか?だったら樺地、お前が暖めろ」
「ウ、ウス」
耳の後ろから顎にかけて、樺地の手で覆われ、顔が近づく。
触れるだけのキス。
たったそれだけの行為でも跡部の体は熱くなる。
「跡部さん…」
低い声で囁いて耳を舌で舐め、今度は深く口付けを交わす。
薄く開いた口に舌を入れ、互いの舌を絡ませる。
より深く、より長く絡み合った場所からくちゅくちゅという音が作られる。
頭がぼぅっとなる頃には跡部の両腕が樺地の首に回され、離れた唇からは白い糸が互いを繋げていた。
「樺地、もっとだ」
「ウス―――」
耳たぶから鎖骨にかけてのラインを丹念に舐めとる樺地。
そのたびに軽い反応を示す跡部。
鎖骨に舌を這わせ、軽く吸い付く。
「―――っン」
身にまとっていたシーツを肩から落とし、胸の突起へと触れる。
節くれた指先でつまみ、指の腹で転がすように弄ぶ。
途端に跡部の体が大きく揺れた。
樺地の丹念な愛撫に感じ始めたのだ…。
―――再び跡部の体が熱くなる。
反対側の突起物に口付けたとたん、跡部の口から声が発せられた。
ぐもった、声を殺そうとしていた声。
「声、殺すと辛いですから…」
もう一度深いキスをする。
今度は口腔内をくまなく犯すように。
同時に弄んでいたはずの右手は腰のラインを撫で、立ち始めたモノに手添えて包み込むように上下に動かす。
「うっ………ぁぁあ!」
固くなり始めたモノからは透明な雫が出始めた。
「…………跡部さん」
「かっ…ばじぃ―――あぁっ」
先端部分に舌を這わしてから口全体で咥えれば跡部のモノがより固さを増した。
赤く濡れた跡部の唇からは甘い吐息がこぼれる。
しだいに赤く染まる体は弓なりにそれて。
「んんっ。あっ―あぁっ!!」
きつく閉じられた瞳からは涙が滲み出す。
部屋に広がるのは熱い吐息と水音だけ。
「かばっじっ―――」
「ウス…」
「あっ、あぁぁぁああああっ!」
樺地の咽が動く。
吐き出された欲望を飲み込むために。
はぁはぁと肩で息をする跡部を抱き上げ、ベットへと運ぶ。
そっと横たえて離れようとする樺地の腕を跡部は咄嗟に握った。
「行くな―――樺地」
「ウス。行きません」
「俺は平気だから。だから…」
「………ウス」
胸の突起物を咥え、舌で転がしながら今度は腰のラインを攻め始める。
手で軽く触れるようになぞるだけで反応を示す跡部。
感じる部位をピンポイントで攻めながら丁寧な愛撫を続ける樺地。
二人の呼吸がより熱く求め合う。
「やっ、だっめだそこっはっ!」
きめ細かく白い肌に舌を這わしながら一番弱いところへと下がってゆく。
さっき達したばかりのモノはまた固さを取り戻し初めていた。
「ひっ―――」
「すいません」
「いいからっ、来いっよっ―――樺地」
「跡部…さん」
冷たい液体が跡部の後ろを刺激し、呼吸を見ながらゆっくりと大きく長い指を中へと進める。
傷つけないように注意を払いながら。
そして決して急がずに。
ゆっくりと飲み込まれてゆく指に比例して跡部の体が小刻みに震える。
その先にある快楽を求めるために―――
ぐもった声はやがて高い悲鳴にもにた声へと変化していった。
跡部のつま先は丸く曲がり、蒼い瞳からは涙が流れ、深い快楽が跡部の体を支配する。
もう少しでイきそうになった瞬間、きつく握り締められた。
「うぁぁぁぁあああああああ!」
快楽を素直に得ていた体に一気に熱が篭り、理性が崩される。
蒼い瞳は濡れて揺らぎ、両腕は樺地を求めるように宙を彷徨う。
「俺は…ここです」
跡部の腕を自分の肩にのせ、キスを交わす。
同時に指を二本に増やしながら。
冷たい液体だったものが温まり滑りがよくなったのを見計らって前立腺と中を刺激する。
「やぁっ…ああぁん」
すでに理性が消えた跡部は全身で樺地を受け止めようと無意識に体が動く。
刺激された体内は少しずつ広がり、跡部の声はさらに甘く切なくなってゆく。
「んっ………ひゃうっつ」
今日はすでに何度か交わったあと。
さほど時間もかからずにすっかり跡部の体は樺地を迎え入れるようになった。
「しっかり俺につかまってて下さい」
ふわりと跡部を抱き上げる樺地。
そのまま腰を支えながらゆっくりと下ろしてゆく。
ずぷり…
「あっあっあーーーーーんっぐ!」
濡れた唇を舐めとり、口付ける。
すんなりと入れた口腔内をくまなく攻め立てるのは挿入感を紛らわせるため。
本来であればこのようなことに使われる場所ではないのだから、苦しいはずがない。
それでも―――互いに求め合って交わるのだ。
互いの熱を感じあうために。気持ちを確かめ合うために。
「まっ…だ動かすなっ―――」
「ウっ、ウス。…跡部さんありがとうございます」
「あーん?」
いつものように睨もうとしても目に力は入らない。
快楽にとけきっているのだから無理もない。
「自分の誕生日にこうして跡部さんと一緒に居られて…」
「嬉しいか?」
「ウス」
「ならいい。お前が嬉しいなら俺も嬉しいからな」
抱き合うように結ばれている二人は笑いかけながらまた、口付けあう。
飽きることなくキスを繰り返し、互いの熱を交換させてゆく。
「いいぞ、もう」
こくりと頷いた樺地は、ゆっくりと動かし始める。
顔中に、耳に、鎖骨に、キスの雨を降らせていく。
白かったはずの体は紅い小さな痣が花のように咲き誇り、事情の激しさを物語る。
ベットまで届く光は星の光と照らし出された雪の輝き。
月明かりに照らし出されるよりもその姿は闇に紛れ込む。
「誰よりも―――あなたを愛してます」
「ふっ…俺も…だっ、あぁんっ!」
白い咽に食いつくように吸い上げれば小さな悲鳴が一つ、跡部の口からこぼれる。
ゆっくりとした動きから緩急をつけた動きに変わればきつく跡部の爪が樺地の背に食い込む。
「あっんんん………ふぁぁぁああっ!」
「くっ―――!」
貪欲に求め合いながらやがて――…
「跡部さん大丈夫ですか…?」
そこにいるのはぼうっと焦点の定まらない跡部の姿。
甲斐甲斐しく体を拭き、パジャマを着せる樺地。
「すげぇ…気持ちよかった。けどなんかいつもと違ってた…」
「……………」
「俺には…言えないことかよ」
睨み合いが続いた5分後、ポツリと樺地が言葉をつむぎ始めた。
「シーツだけを身に着けた姿を見せたくなかったんです…」
「誰にだよ。あーん?」
「ずっと外を、空を見ていたから……」
ここにいるのは二人だけだということは樺地も十分に知っているはず。
「………やきもち?」
びくり。と樺地の肩がゆれた。
「やきもち焼く対象は人間以外にも有効だったなんて知らなかったな」
「ウ…ウス………」
「可愛いやつだな樺地は。でも、なんでだ?」
恥かしそうにぽつりぽつりと離し始めた樺地。
「星の光がって何光年、何億光年って離れた場所から届く過去の光なんです」
「………………」
「月明かりに照らし出される跡部さんの姿は凄く綺麗でずっと見ていたいって思うんですが…
地球に一番近い分、なんか覗かれてるような気がして…」
「だから見せたくなかった訳だ」
「ウス。すいません…」
「ばーか。誤るなって。俺は嬉しいぞ、樺地」
「ウス………?」
「樺地はあまり感情的にはならないからさ、こういうのが凄く嬉しい。
でもな、今日は月は出てない。新月だからな」
うっすらとだけ、樺地の顔が赤くなる。
「嫌い…ですか…?」
弱弱しい声。
それすらも愛しいと思う跡部。
「はーん。嫌いになるわけないだろう。樺地の…全部が知りたいんだから」
「ウス…」
「なぁ、樺地」
「ウス?」
「俺を抱きしめろ。向かい合うように」
「ウス」
樺地の後ろでは秒針が一生懸命時を刻んでいる。
一分前―――
「もう、誕生日も終わるな…」
「………ウス」
残り四十秒―――
「誕生日おめでとうな、樺地」
残り三十秒―――
「俺も、樺地のこと愛してるぞ。さっきはちゃんと答えられなかったからな」
「ウス。俺もです」
今日、最後の口付け。
時計の針が全て同じ時を指した瞬間、日付が変わった。
「終わったな…」
「ウス」
「もう少しで俺は先に卒業する。でも、距離なんか関係ない」
「ウス。学年が違っても、学校が違っても一緒に居ることは出来ますから」
「あぁ、必ず迎えに来いよ?」
「ウス!」
樺地の腕を枕代わりにして、密着しながら眠りへとつく二人。
―――外ではいつしか真新しい雪が降り始めていた。
*** Fin ***