――――――ムカつく。
なんであんたはいつもオレにないモノを持っているんだろう。
眩しくて、眩しすぎて――…胸が締め付けられる。
『 もう少しだけ 』
突然の夕立でついさっきまであんなに晴れてた空に裏切られた。
傘も、雨宿りする場所もなく桃先輩とオレは容赦なく雨に降られ続けた。
びしょびしょに濡れて張り付くシャツが気持ち悪い。
ぺたぺたと濡れた足跡2つ、風呂場へと続く。
「先輩先にどーぞっス」
「あ?なに言ってるんだよ。お前の方こそ唇が紫色してっぞ。
俺は平気だから先に暖まってこいよ」
「ヤダ」
「ヤダって…。お前なぁ〜」
ハードワックスで固められていた桃先輩の髪が雨に濡れたせいでぺちゃんこになってる。
濡れたままの前髪からはひっきりなしに水滴が滴り落ちてゆく。
ぽたぽたと、顎からも――…。
「いいじゃん。一緒に入れば…。二人くらい入れるっスよ家の風呂」
「――…それもそーだな」
シャツを一気に脱ぎ去って現れた肉体にオレはムカついた。
大人へと成長し始めている桃先輩の体は適度に筋肉が締まっていて綺麗だと思ったからだ。
たった一年しか違わないのに…こんなに差が出るのかと思うと凄く悔しくてムカつく。
でも――…ムカツクけど格好いいんだ、この人は。
曲がったことは大嫌いで、子供や女性には無条件に優しくて。
そういえば前に聞いたことがあったっけ。
『先輩って…優しいっスよね。子供とか女の人とかに』
『別にそーでもねーぞ?俺が出来ることしかやってねーしな』
にかって笑ったんだ。
太陽みたいな、明るい笑顔で。
ストン―――ってオレの中になにかが落ちてきたんだ。
その時は分からなかったものだったけど。
今なら…分かる。
今にして見れはその瞬間にオレは桃先輩に惚れたんだと思う。
認めたくないけど――…。
「おい、越前早く脱いじゃえよ。本気で風邪引くぜ?」
トクン―――…と鼓動が高鳴った。
覗き込まれた顔は真剣な表情だったから。
真っ直ぐにオレを射抜く眼差しは心の奥底を見抜かれているように見えて――…少し怖い。
「越前、ほら手あげろよ」
「なっ!」
「体が震えてるんだよ。寒くて…。だから早く脱いだほうがいいっていっただろーがったく」
変――…なの。
ぶつぶつ文句言ってる割には楽しそーだけど、あんた。
まっ、ここは素直に言うこと聞くよ。
寒いのは事実だし。
「あーあーこんなに冷えちまって。いけねーな。いけねーよ」
「桃…先輩………」
「ん?」
「――…Thanks」
「気にすんなって。俺は風呂借りる側だしな。ほら、風呂入ろうぜ」
そういって差し伸べてくれた手に自分の手をのせた。
大きさの全然違う桃先輩の手。そして、とても暖かい手。
浴槽からお湯が溢れた。
二人、横に並んで肩まで湯船に浸かって。
熱いと感じたお湯がじんわりと体を暖めてくれる。
のんびり湯船に浸かってたら先に桃先輩が髪を洗い出した。
使われるのは俺が愛用しているジャンプーで…。
なんだろうこの気持ち。
「おい越前…なにしてんだよ? 湯船に潜って…」
「別に…」
「ふーん。まぁいいけどな」
しゃかしゃかと髪の毛を洗う音と一緒に窓に叩きつける雨の音が聞こえた。
外はまだ雨が降り続けているようだ。
「ほぁら」
「おっ、タヌキも風呂入るか?」
「だからタヌキじゃなくてカルピン! いつになったら覚えるんスか」
浴槽の扉をかりかりとかいて入れろ――…とせがむ。
カルピンは意外と人見知りが激しいのになぜか桃先輩には懐いてる。
もしかしてオレの匂いでもするのかな?
そう思ったらほんわりと胸の部分が暖かくなった。
「んで、どうすんだ? 中に入れて洗うのか?」
「洗ったばっかりだからいいっス」
「そっか」
またにかって笑った。
不思議――…だと思う。
桃先輩と一緒にいていろんなことを知った。
知らない感情も一緒に――…。
もし、オレが好きだって言ったらアンタはどんな顔する?
びっくりするだけ? 笑って冗談だろって言う?
それとも――…気持ち悪がる?
「おーい、越前」
「なんスか?」
「このタオル借りるぜ?」
「どーぞっス」
ねぇ。もう少しだけ、もう少しだけ――…。
――…このままの気持ちで居させてよ。
*** Fin ***