――…ねぇ、なんで言わないの?
にっこりと微笑みながら部室を出て行った先輩の言葉に胸が痛んだ。
ことの発端は先輩たちの恋話で、それが偶然居合わせた俺に飛び火して――…。
「はぁ。危ねーな。危ねーよ」
ギシリと音を立てながら部室にあるベンチに腰掛けた。
両足を大きく広げ、太腿に両肘をついて考えるような仕草で。
問いただされた時の目が全てを見透かしているようで嫌だった。
「まだ…」
言葉にならない思いがじんわりと俺の体に広がってゆく。
―――言うのは早すぎる、と。
「いや、言っちゃーなんねーな。なんねーよ」
初恋というわけじゃない。
でも、ここまで人を好きになったのだ。
大切にしていきたいと思う。
穢したくないからこそ――…。
けれど、相手に思いを告げようとも思わない。
「下手すりゃ一生いえないかもな」
なんて苦笑いをしてしまう自分が滑稽で馬鹿みたいだと思う。
本当の意味に気がついたのはつい最近。
だからこそ今のままの状態を崩したくないと―――願ってしまう。
「なんであの時「さぁ?」なんて答えたんだろーなぁー俺。
あとが怖いのによー」
すでに居ない先輩の冷笑ともいえる笑みにやや恐怖を感じつつ帰り支度を再開させる。
今日は久しぶりに一人だけで帰るのだ。
思い人は用事があるらしくそそくさと帰った。
一言俺に言ってからだったけれど。
「好き…だからこそ言わない」
それが俺の答え。
正確にはまだ言えないになるんだろうけど。
もっと強くなろう。
そしてアイツの全てを包み込めるようなヤツになろう。
「出来るまで気が付かれねーよーにしないとな」
―――パチーン
両の頬を叩いて気合を入れなおす。
勝負はまだ始まったばかりなのだから。
なぁ、越前?