寒さを感じるはずの北風に心地よさを感じる深夜―
バルコニーへと続く窓を開けて空を見上げれば、少し欠けた月が顔を出していた。
暗闇には色彩豊かに星が瞬いている。
「気持ちいいもんだな…」
体の芯に燻るように居続ける熱が思いほのか気持ちよくて。
と、同時に心は今までにないくらい穏やかな気持ちで満たされていた。
つい先ほどまでベットから起きあがることすら出来なかったはずなのに…。
彼が席を外してから、なんとなく窓辺に近づいてみた。
無性に空を見上げて見たくなったから…。
「もう10年以上か―――」
初めて出会ったのは俺達はまだ中学生だった。
瞼を閉じれば鮮明に映し出される数々の思い出たち。
学年が違ったあいつとは一緒にいられる時間は限られてた。
だけど…限られた時間の中で確実に互いの思いは深まっていったよな。
共に過ごしてきた時間はとても短く感じさえするんだからよ。
「まだ…こんなにも―――」
喧嘩した時だってあった。
思ってる事がうまく伝えられなくて、それがもどかしくて。
そういえば俺が泣くと図体がでかいくせにおろおろして可愛いんだよなぁ。
くすり。と、微笑みが自然と零れる。
「その続きは何ですか?」
月の光が射し込む部屋に一人、ワイングラスを手にした男性が佇む。
俺の秘書とSPをこなす優秀な後輩。
そしてこの家の同居人でもあり、恋人でもある樺地が話しかけて来た。
「ん〜。まだこんなにもお前の事を考えるとどきどきするんだ。って思ってさ」
「それは俺もです。どきどきし過ぎて胸が苦しくなりますよ」
「………ばーか。それより見つかったのかよ?」
「ウス、ありました」
そう言ってグラスに注いだのは俺の生まれた年に作られた赤ワイン。
サイドテーブルにちょうど月の光が届いて赤い液体が光を反射する。
今宵は誰しも浮かれる聖夜。
そして俺もその内の一人。
「そっか。なぁ…」
「………?」
そっと渡されたワイングラス。
それを一口飲めば芳醇な味が口いっぱいに広がる。
ちょうど俺の生まれた年はワインの当たり年なんだそうだ。
改めて言葉にするのは凄い恥ずかしいと思う。
だけどこんな時だからこそ言っておきたい言葉があるんだ。
深く深呼吸を2度、3度と繰り返し、しっかりと目を見たまま言葉を紡いだ。
思いが「言葉」にのってお前に届くように―
「俺…こと跡部景吾は生涯、樺地崇弘の事を愛することをここに誓う。
これがさっきの答え………だ」
実はついさっき、正式に樺地にプロポーズされた。
嬉しすぎて旨く言葉が言えなかった俺は何度も頷いた。
俺からの返事として。
だけど…ちゃんと言葉にして樺地に伝えたかったから。
いや、伝えないといけないから。
「返事…遅くなってごめん」
「そんな事はないですよ。頷いてくれた時、すっごい嬉しかったんですから俺」
「―――むね…ひ…ろ」
初めて呼んだ名前はじんわりと水面に波紋が広がるように俺の中に浸透していった。
呼ばれた樺地も驚いて目を見開いてる。
「けい…ごさん」
そっと耳元で呟かれた俺の名前―
掠れ気味の、甘く切ない声が俺を捕らえる。
燻っていた火がまた大きく揺らぎ初めて炎へと変化してゆく。
ゆっくりと目を閉じれば柔らかな感触が唇におりてきて―
俺の体を包んでいたシーツごと樺地の胸に抱き込まれ―
二人だけの熱い夜が再び始まる―――
いつしか空からは白い贈り物が降り始めていた―――
今宵は久しぶりのホワイトクリスマスv
そして………俺達が確かな絆を再確認した日―――