紅く、炎が燃えるかのごとく咲き乱れる曼珠沙華――
沈む夕日がより鮮明に世界を紅く染め上げて――
「すげぇなぁ、なぁ樺地」
「ウス」
曼珠沙華が咲き乱れるこの時期、紅い丘と呼ばれる場所に二人で赴いた。
暑かった夏も過ぎ、季節は9月半ばへと移り変わった今日。
すでに跡部は部活を引退し、実質2年生主体のチームへと切り替わって1ヶ月近く。
久しぶりの部活が休みとなり、噂を聞きかじっていた跡部の一言でここを訪れた。
『出かけるからついて来い』――と。
紅い花が風に揺れ、どこからともなく鳶の声がする。
都心には珍しい自然の、昔ながらの情景。
辿り着いたのはもう夕方近く。
けれど 流れるときは穏やかなままに、過ぎ去る風は心地よく二人を出迎えたくれた。
一番見晴らし良い場所へいけば人の姿もまばらで。
錯覚しそうになる。
世界に二人だけしかいないように―――と。
地平線に沈む太陽はより色を紅くし、世界を変えてゆく。
静かに、ゆっくりと。
世界が全て赤く染まる瞬間、言いようの無い不安を跡部は感じた。
それは見ている風景が美しすぎるゆえに感じてしまったもの。
同時に自分の存在が酷く小さなものに感じてしまう。
ふわりと、嗅ぎなれた匂いが跡部の身体を包み込む。
それだけで彼は安心するのだ。
以前に比べれば共にいる時間は各段に少なくなった。
しかし、二人の絆は逆により深いものへと変化した。
距離も、心も問題じゃないのだ。
大切なのは相手を信じる心――
「なぁ、樺地」
「ウス?」
「また来年もここへ来るぞ」
「ウス…」
ほんの少しだけ力を込める樺地。
その樺地の腕に跡部は手を添えて景色を見続けた――
自然が織り成す刹那の名画を目に焼き付けるために――